December 22, 2008

井戸の中の類友

 

自分の常識を超える何かを目の当りにしたとき、また予想を上回る何かに遭遇したときに人は驚き、感動する。

また、理解できないその何かに触れることで、あなたの今までの意識や観念は捻じ曲げられることになる。

そしてどこまでも続く広大な草原だと思い込んでいた自分の常識や世界観は、所詮、無知なカエルの済む井戸の中のようなものであったことに、ようやく気付くのだ。

≪井の中の蛙大海を知らず≫というやつだ。

 

≪類友の法則≫

似通った性向や傾向を持つ者が自然と集まる法則。

 

いつも一緒にいたり、行動を共にしていると、同じ価値観や思考サイクルを持ち始めたり、顔が似てきたりするものだ。

そういった傾向は、夫婦なんかに顕著に見られる。

 

似ているから集まる、一緒にいるから似てくる・・・タマゴが先か、ニワトリが先か意見が分かれるところだが、間違いなくそんな法則は存在する。

 

普通は井戸の外を見ようとか、外海に出ようなんて言うもんだ。

井戸の外を見ることは重要。

 

しかし、井戸の中を好んで集まってくる人たちがいることも事実。

井戸の中が心地よいのだ。

 

そんな小さな井戸の中に集まったカエルさんやカメさんやゲンゴロウさんたちの価値感や日常を深く知りたいと思い、逆に私が井戸の中に入って行った話をしようと思う。

 

途中、不適切な表現が出てくる可能性があるが、よりリアルにお伝えしたいという意図であえてそうするため、気分を害することがあってもお許し願いたい。

 

 

 

・・・   ・・・   ・・・

 

 

その飲み屋は、私が以前住んでいたところから近いところにあったこともあり、ずっと気になっていたのだが、なかなか一見さんが入るには勇気のいる佇まいをしていることもあって、訪れるきっかけをつかめずにいた。

 

しかし、どうにも気になる度がピークに達した8〜9年ぐらい前の今頃、1人じゃ怖いので、後輩2人を引き連れ、意を決してその店の暖簾をくぐったのだ。

 

夜の8時を過ぎていたが、金曜日のゴールデンタイムであろうその時間に客は誰もいなかった。

店内のカウンターには椅子が5脚、座敷にテーブルが2脚。

 

その座敷の隅に、なぜか布団を被って寝ているメスのクマさんが一匹いた。

 

 

 

寝、寝とる・・・

 

 

 

クマさんの名は≪かずちゃん≫。  当時確か70歳手前ぐらい。

 

ス、スミマセ〜ン・・・

恐々、声をかけてみた。

 

ムクッと起きたクマさんがニッコリと笑った。

起きあがる姿は、トトロが目覚めるシーンがしっくりくるので想像しておくれましょう。

 

かずちゃんは、笑い方に特徴があって、そのときも地を這うようなバリトンボイスでゲヘゲヘ笑いながら我々を迎え入れてくれた。

 

 

 

 

かずちゃん

いらっしゃ〜い  ゲヘゲヘ

 

 

体格はガッシリでセキトリなみ、パッツン前髪に外はねカールの髪型と極太マユゲ、スマイルは超一流だった。

 

飼ってたオス猫の名は≪アトムちゃん≫。 アトムではなくアトムちゃんだ。

こいつも超巨漢。 推定10歳前後、目方は15kg前後。

かずちゃん自身はウランちゃんの髪型を参考にしていると言っていた。

どうやら、鉄腕アトムが好きだったらしい。。。

 

かずちゃんには息子が2人。

本人曰く、長男は東京でTV関係の仕事をしているとのこと。

次男はその引きこもり的な性格が原因か、ことごとく仕事が続かず、かずちゃんの店の料理人に納まっていた。

 

彼も超巨漢。

通称≪おにーちゃん≫。

おデブさん特有の息づかいで、ものすごく早口、チックらしく、癖で鼻を頻繁に動かしながら眼鏡を上げる動作が印象的で、凄まじい個性を放出していた。

突き出たお腹は、始終どこかに触れるらしく、いつもシャツがババチかった。

料理する時だけ、敷地内にある母屋の自分の部屋から出勤し、料理が終わるとまた巣穴へ帰って行った。 

 

大方、料理は料理人の好みになるもので、彼の作る料理の場合、味はまずくはないが、濃いかった。

あの料理をずっと食べていたら、いずれ成人病になり、きっと還暦のお祝いで赤いちゃんちゃんこを着る日を迎えることは出来ないだろう。。。 

 

 

で、話を戻す。

 

テーブルに着いた我々3人だったのだが、後輩2人は入ったと同時に帰りたくなっていたらしい。

完全に顔が曇っていた。

 

だが、私は楽しくてしょうがなかった。

完全にニヤケていた。。。

 

箸置きを動かしたらチビちゃいゴキさんがササササー。

 

もうイヤだと帰りたがる後輩2人を制止することも出来ず、後ろ髪をひかれつつもその日は退散することにした。

 

その後、足繁く通い、見事に常連化することに成功したのだが、後に出会ったその店の超常連たちは、私にとって一生忘れることのできない印象を残したツワモノたちであり、その勇姿はいまだに脳裏に焼きついている。

 

社会の吹き溜まり、人生の終着駅などという言葉がよく似合う、なんとも異空間で、異次元の世界がそこにあった。

 

所得のない人、もしくはそれに順ずる人たち、年金生活をしているお年寄りなど、お世辞にも生活水準が高いとは言い難い人々の集まる店。

言い方は非常に悪いが低所得貧民たちの愛した場末の居酒屋。

 

説教したくなるダメダメ人間もいっぱい集まった。

 

ツケを払わんヤツも多く、出入り禁止にも関わらず平気で店に来るヤツや100円で飲ませてくれとマジメな顔して頼んでるヤツもいた。

 

 

様々なドラマがあった。

そして様々な人との出会いがあった。

 

しかし、その店はもう営業していない。

 

かずちゃんはパチンコ狂いで消費者金融に結構金借りていたらしい。

下手の横好き。 負け方がハンパじゃなかった。

 

借金取りから逃げたのか、彼氏と言われる人の元へ雲隠れしてしまった。

現在、生きていれば70歳代後半のババアである。 

なんともファンキーなヤツだ。

 

かずちゃんがトンズラする少し前に、おにーちゃんがとなりに店を出した。

2軒続きの長屋で、以前は隣を貸していたのだが、その店が廃業したということで、おにーちゃんがデビューしたのだ。

かずちゃんの店の客だった比較的まともなおばちゃんがアルバイトをすることになった。

 

しかし、かずちゃんトンズラ後、お客が減った。

 

そもそも、おにーちゃんは接客に向いていない。

 

そのうち、店番はバイトのおばちゃんだけになった。

店を放ったらかし、また料理だけ作りに来る例のスタイルへと戻ってしまったのだ。

 

そして3ヵ月後には店を閉めることになった。

 

だから、私の想い出のあの店は、今はもうない。

 

 

エッチ先生、人見知りのすぎうらくん、カラオケ歌うときは必ず立って二人で仲良く歌う、不倫関係の60代カップル、豆腐のジジイ、ケチセレブ婦人、パワフル3人娘・・・などなど、単独で漫画の主人公になりそうなぐらい強烈なキャラクターを持ったヤツらがひしめいていた。

 

その中でもパワフル3人娘、コイツらは凄かった。

さらっと紹介しておく。

 

3人とも年齢は70歳前後。

 

その名はおケイとハナちゃんとミツコさん。

 

おケイはガリガリ、チリチリのソバージュに花沢さんなみのダミ声。

お勘定をしているところを見たことはない。 

その代わりビールをたかっているところはよく見た。 

だから皆に避けられていた。。。

 

ハナちゃんは70歳過ぎているのに、古タイヤのトラックへの積み下ろし作業を行う現場で働くスーパーばーちゃんで、腕っぷしは良いしガタイも逞しかった。

そしてカラオケが大好きだった。 しかし下手だった。。。

 

ミツコさんは酒癖がド悪く、いつも絡み酒で誰かとケンカしていた。

酒の飲みすぎとタバコの吸いすぎからか、歯槽膿漏で歯がほとんどなかった。

しかし、彼氏がいた。

そして、この人の彼氏を私は≪豆腐のじじい≫と呼んでいた。

働いてはいなかったようだ。

推定年齢70歳代半ば、なぜかくずれた豆腐をビニール袋に大量に入れて店に頻繁に持ってきていた。 

その豆腐と物々交換で酒を飲んでいた可能性がある。 

そして、首からぶら下げたがま口財布にはいつも1000円だけが入っていた。。。

きっと家の人がそれだけ持たせてくれていたのではないかと推測する。

 

また彼は何かの手術で声が出なくなっていた。

だがしかし、声なき怒りでもって、よく彼女のミツコさんとケンカをしていた。 

 

 

 

結局はトンズラしたかずちゃんをはじめとして、ダメダメな人間が集う店だったのだが、人間の本質が垣間見えるというのか、珠玉のヒューマンドラマ?を見ることができたような気がする・・・    のかぁ?

 

16日の記事「二階級特進」にも書いたが、いくつになったって人間の欲や業は薄れることなく、へたしたら深まるばかりなのかもしれない。

 

類友の法則。

 

井戸の中へ入っていく人たち。

 

井戸の中の水は温かくて居心地が良いのかもしれない。

 

私は自分にとって理解出来ないものを体感したくて、ある意味人間ウォッチングのつもりでかずちゃんの店の暖簾をくぐった。

だから彼らとは一線を画し、蚊帳の外にいるはずだった。

しょもないなぁ〜とついつい言いたくなるダメダメ人間の集まる店だったが、それでもキライになれない人間の本質と言うのか、人間愛と言うべきか、いつの間にやらその空間に心地よさを感じている自分に気付いてしまったのだ。

 

価値観と類友の法則。

 

自分の本質がダメダメで類友だったのか、それとも置かれた環境によって自分を変えようとする本能が働き、いつの間にか価値観を同じくしようと脳みそが動いていたのかはよく分からない。

まー、きっとダメダメなんだろうな。

 

ただ、実際、価値感を同じくするまでのことはなかったが、その場を楽しく過ごそうという力は間違いなく働いたし、笑えることが多くてついつい飲みすぎた。

勘定も超適当だし、かずちゃんがちゃんと計算してるかどうかも分からんかった。

 

そして結論、かずちゃんの店から学んだことは、どちらにしても自らを置く環境は、自らの意思によって決定されるわけだし、だからこそ、その選別には気をつけなくてはならないということだ。

 

友達や、付き合う人々、自分の身を置く環境は惰性ではなく、きちんと選ばなくてはならない。

 

そしてなるべくならば、自分を高めてくれる、成長させてくれる環境や友人を作れることがやはり重要なことで、それが自分を変化させるためにも手っ取り早い手段なのかもしれない・・・

 

まずは懐へ飛び込む。

大局観をもって井戸の中へ飛び込むのだ。

そう、私がかずちゃんの店の暖簾をくぐったように。

 

ひょっとしたら井戸の中に4次元の世界が広がっているのかもしれない・・・



houkinkun at 18:30│Comments(2)TrackBack(0)clip!テキトー放談 

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この記事へのコメント

1. Posted by ひー坊のオジサン   December 25, 2008 01:03
ながいことこのブログ見てたけど遂に「和」が登場。
トイレにはアリがワンサカいるし壁には元アルゼンチン出身の力士のポスターがはってあったりした異次元なお店でした。
また新たなお店を開拓してください。
2. Posted by 伊藤   December 25, 2008 16:10
ひー坊のオジサンさん

コメントありがとうございます。

あの店をご存知ということは・・・

もしやっ

バーブ佐竹さん?

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